寄付金の使途「環境保全」を逸脱した「観光広報」事業 屋久島町 海底清掃事業・住民訴訟
寄付者が指定「環境保全」➡
総事業費1700万円の75%超が観光ガイドの冊子と動画 制作費に流用
渡辺千護町議「屋久島町だいすき寄附条例に違反した事業支出」
【上左】海底清掃事業を請け負ったJTBパブリッシングが入るJTBグループのロゴとスローガン(Wikimedia Commons より)【上中】屋久島町「ふるさと納税」のロゴ(町ウェブサイトより)【右】ふるさと納税の寄付金で屋久島町が制作した観光ガイド冊子「るるぶ特別編集 屋久島」【下左】屋久島町が制作したユーチューブ動画のサムネル画像
ふるさと納税で「屋久島の自然を守って欲しい」と寄付された1700万円を活用して、屋久島町が2022年度に実施した海底清掃を主体とする環境保全事業で、総事業費の大半が海底清掃そのものではなく、屋久島の観光情報などを紹介するガイド冊子や動画の制作費に支出された問題――。
この事業への支出が、ふるさと納税の寄付金の使途を定めた「屋久島町だいすき寄附条例」に違反しているなどとして、同町議会の渡辺千護町議は8月に住民訴訟を提起。町に対して、事業に支出した約1700万円を荒木耕治町長ら町幹部3人に賠償請求するように求めている。
屋久島ポストは訴状に基に、渡辺町議の主張を複数回にわたって紹介。2回目は「本件事業支出の条例違反」について、その詳細を以下に伝える。
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「寄附申込書」で使途を「環境保全」と確認
この海底清掃事業の主目的は環境保全事業であり、その事業費には、全国から屋久島町に寄せられた「ふるさと納税」のなかでも、特に「環境保全事業」に使ってほしいと指定された寄付金が充てられた。
町は寄付金を集める際に、「屋久島町だいすき寄附条例施行規則」にしたがって、寄付者に対して「寄附申込書」への記入を求めており、そのなかの「内訳」で「上記寄附金の使い道※希望する使い道を記入してください」として、次に挙げる6件の選択肢を示している。
➀世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業
➁子育てや教育に関する事業
➂人口減少の抑制及び交流人口増加に資する事業
➃地域の活性化を支援する事業(産業支援、集落支援、創業支援等)
➄地域の消防・防災対策に関する事業
➅事業を指定しない (注)事業を指定しない場合は、条例に基づき町長が事業の指定を行うことになります。
この6件の選択肢のなかで、この海底清掃事業には「➀世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業」と指定された寄付金が使われた。
屋久島町がふるさと納税を受け付ける際に提出を求めている申込書の一部。希望する寄付金の使い道を尋ねる欄には、「環境保全事業」や「消防・防災対策」など6件の選択肢が記載されている
町、事業の主目的「海底清掃」と明記
また町は、この事業の契約を検討する際に作成した文書で、「本事業は、ふるさと納税を通じて寄附をいただいた多くの方から『屋久島の自然を守って欲しい』との思いを反映させるため、屋久島の自然を育んできた水の循環をテーマに、海底清掃を実施することで、海・川・山のつながりで豊かな自然を守る事業を行います」として、事業の主目的が「海底清掃を実施すること」であると明記した。
海底清掃事業を契約する際に、屋久島町が作成した契約伺いの文書の一部。寄付金を使って「海底清掃を実施する」と明記している。
さらに町は、この事業を委託したJTBパブリッシング(本社・東京)に送った事業の仕様書のなかで、業務の目的として「屋久島だいすき基金の事業区分『世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業』の一環として、海底清掃事業を実施し、本基金が環境保全に活用されていることを島内外に発信することで、関係人口の増大を図る」と明記した。
これらの事実を踏まえると、この事業への寄付金の支出は、その使途として「➀世界自然遺産をはじめとする地域の環境保全に関する事業」に限られることは明らかだった。また仕様書にあるとおり、「本基金が環境保全に活用されていることを島内外に発信」することを使途に含めるとしても、条例にしたがって事業費の大半は海底清掃に使われるべきであり、活動報告をする情報発信への支出額は最小限度にする必要があった。
海底清掃の潜水は2時間のみ
ところが、事業が終了したのちに、JTBパブリッシングが提出した「実施報告書」によると、事業の主目的とされた海底清掃について、実際に海底に潜水して清掃活動をしたのは合計2時間のみだった。
さらに、回収したごみの量については「40分ほどでプラスチック片やペットボトルを多く回収」「漁具(釣り糸)も多かった」などと記載されただけで、実際に海底で回収したごみの総量や廃棄実費は報告されなかった。
海底清掃事業の「実施報告書」の一部。「40分ほどでプラスチック片やペットボトルを多く回収」などと記載されたが、実際に回収したごみの総重量は報告されなかった
JTB「るるぶ特別編集 屋久島」に375万円
その一方、町は屋久島の観光情報などを伝えるガイド冊子と動画の制作に多額の支出をした。
まず、観光ガイド冊子については、JTBブランドの「るるぶ」を冠した「るるぶ特別編集
屋久島」を2万部印刷して、計375万円(税抜き)を支出した。冊子の内容としては、JTBパブリッシングが市販している観光ガイドブック「るるぶ」とほぼ同じで、屋久島の観光地やグルメ情報などを伝える観光ガイドだった。
海底清掃の関連事業として屋久島町が制作した観光ガイド冊子「るるぶ 特別編集 屋久島」の一部
10分のユーチューブ動画に364万円
次に動画については、ユーチューブで公開する10分の動画および、これを短く4分に編集した動画の計2本の制作に330万円、カメラマンの人件費に24万円、撮影サポートダイバーの人件費に10万5000円の計364万5000円(税抜き)を支出した。
動画の内容としては、その大半が屋久島の自然の魅力を伝える観光広報的なものであった。また、冒頭で海底清掃について紹介しているが、実際にはわずか2時間だけ潜水した清掃活動であり、回収したごみの総量を示さない内容で、その成果を誇大に紹介するものであった。
【動画】屋久島町が制作した動画「海・山・川の繋がりで豊かな屋久島の自然を守るプロジェクト」(10分バージョン)
これら観光ガイド冊子と動画の制作に支出した計739万5000円(税抜き)に加え、メディア露出費の75万円(同)、取材スタッフらの交通宿泊費の156万8800円(同)、統括管理費の198万1000円(同)、企画コーディネート料の99万500円(同)を合計すると、その総額は税込みで計1278万4350円となり、総事業費1698万円9918円の75%超が本件事業の主目的ではない観光ガイド冊子と動画の制作などに使われたことになる。
海底清掃関連の支出は総事業費の15%のみ
その一方で、この事業の主目的である海底清掃(一部で海岸清掃を含む)の費用は、コーディネーター人件費に21万円(税抜き)、作業ダイバー人件費に45万円(同)、船舶借上費に60万円(同)、ゴミ回収廃棄費用に100万円(同)で、その総額は税込みで計248万6000円となり、総事業費1698万円9918円の約15%のみであった。さらには、実際に海底に潜水して清掃した時間が計2時間のみであったことや、「実施報告書」で回収したごみの総量と廃棄実費を報告していないことから、海底清掃に支出した248万6000円は不当に高額であったといえる。
これらのことから、この事業への寄付金の支出が条例で定められた使途を逸脱していたうえ、総事業費の大半が事業の主目的である海底清掃ではなく、屋久島の観光情報を伝えるガイド冊子と動画の制作に使われた事実を踏まえると、この海底清掃事業への支出が「屋久島町だいすき寄附条例」に違反していることは明らかである。
業者に上手くやられていますね。
町が必要に迫られて自主的に行った事業では無い為に利用されていることは明白です。
トコトン追及して膿みをださなければ、折角納税して頂いた皆様に申し訳なく思います。
訴訟を提起した、渡辺議員には頑張って頂きたい。