【視点】住民に重要な情報を伏せて進む「多目的交流センター」整備事業

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屋久島町「安房大ホールの廃止」「文化施設は一つに統合」などを広報せずに計画推進

新施設の建設場所「宮之浦地区」も町報に未掲載
安房大ホールと町役場
【左】大ホールが廃止される屋久島町総合センター(屋久島町安房地区)【右】屋久島町役場(屋久島町小瀬田地区)

 屋久島の南部地域にある「屋久島町総合センター」と北部地域にある「屋久島離島開発総合センター」――。

 いま町内に二つある文化施設を廃止し、一つに統合する町の方針に対して、南部地域の住民から異論が出ている。将来的に町は、大ホールを備えた新施設を北部地域の宮之浦地区に建設する計画で、遠方となる南部地域の住民が利用しづらくなるためだ。926日には荒木耕治町長ら町幹部と住民たちが面会して協議するが、町が方針を改めるかどうかは見通せていない。

南部と北部、旧2町の文化施設を交互に利用

 両センターは合併前の旧屋久町と旧上屋久町の文化施設として、南部と北部、それぞれの地域で長年にわたって利用されてきた。2007年の合併で屋久島町になって以降は、成人式や生涯学習大会などを1年ごとに交互の施設で実施し、両地域の住民に配慮する形で催しを開いてきた。

 しかし、合併から十数年が経過し、両センターが老朽化したことを受けて、町は文化施設を一つに統合することを決定。北部地域の宮之浦地区にホール機能などを備えた「多目的交流センター」を建設する計画を立て、2026年に着工、2028年の完成をめざしている。

安房校区の区長会、南部の安房大ホールの改修などを要望

 ところが、その計画に南部地域の住民から異論が出された。

 安房校区(永久保、船行、松峯、安房、春牧、平野)の区長会が8月、荒木町長に陳情書を送り、南部地域の安房地区にある屋久島町総合センターの大ホールを改修し、文化施設として継続利用できるように要望。そして、もし安房大ホールの改修が認められない場合は、「全町民が平等かつ公平に利用できる」ようにするため、多目的交流センターの建設場所を北部の宮之浦地区ではなく、南部と北部の中間地点で、町役場がある小瀬田地区に変更することを求めたのだ。

荒木町長、多額の改修費で安房大ホールは廃止の方針

 荒木町長ら町幹部らは926日、同区長会や南部地域の住民と面会して協議する予定だが、すでに多目的交流センターの建設場所は宮之浦地区と決めており、計画を見直す可能性は極めて低い。また、安房大ホールについては、改修に多額の費用がかかるため、荒木町長は町議会で「現状のようなホールとして使うことは、いまのところは考えていない」と表明している。

 そこまで荒木町長ら町幹部が意思を固めているにもかかわらず、町の計画が決まった現段階で、なぜ住民から異論が出ているのか?

 その最大の原因は、この多目的交流センターの整備事業について、荒木町長が詳細な情報を住民に伝えてこなかったからだ。安房大ホールを廃止したうえで、文化施設を一つに統合するという方針を町が明確に広報したことは一度もなく、何も知らされていない住民、特に文化施設がなくなる南部地域の人たちから不満の声が出るのは当然である。

屋久島町長答弁

安房大ホールの廃止などについて答弁する荒木耕治町長(2024年6月11日、屋久島町議会YouTubeチャンネルより)


重要な情報を伏せた不適切な「町報やくしま」

 町は20243月に発行した「町報やくしま」で、「新たな複合施設『多目的交流センター(仮称)』の整備について」と題し、同センターの建設計画について広報した。しかし、見開きページのどこを見ても、安房大ホールを廃止することも、文化施設を一つに統合することも、まったく書かれていなかった。さらには、新たに整備する多目的交流センターの建設場所が、北部地域の宮之浦地区であるということも明記されなかった。

「安房大ホールを廃止」「文化施設を一つに統合」「新施設の建設場所は北部地域の宮之浦地区」

 いずれも住民にとってはとても重要な情報であり、それらを町の広報誌に掲載しなかったのは、極めて不適切だった。余計な情報を住民に与えると、何か不都合なことが起き得ると心配して、町が意図的に伏せたのではないかと疑われても仕方がないだろう。
町報3月号➁
多目的交流センターの整備事業について説明する「町報やくしま」(2024年3月号)の記事

新庁舎建設をめぐる町長リコールと同じ轍

 思い起こせば、2016年に起きた新庁舎建設の反対運動も同じだった。

 総事業費が24億円にもなる大事業であるにもかかわらず、荒木町長は町議会で関連予算を通すまでは、住民に詳細な計画を一切知らせなかった。そして、高額な事業費に驚いた住民たちが町長の解職を求めるリコール運動を展開し、小さな町は1年にわたって大きく揺れた。

 そのリコール騒動を受けて荒木町長は、住民との対話は「私の政治家としての一丁目一番地」と町議会で表明。それ以降の事業では、住民に対して丁寧な広報に努めることを誓った。

 それから7年の歳月が流れたが、荒木町長は反省することなく、またもや同じ轍を踏んでいる。南部地域から文化施設が消えるのに、それを住民に伝えないまま、新たな文化施設を北部地域に建設すれば、住民から異論が出るのは当然だ。そして、新庁舎建設と同様に、このまま強引に計画を進めれば、町内に大きな禍根を残すことになるだろう。
2016年の町議会
新庁舎建設計画の見直しを町議から迫られる荒木耕治町長=右から2人目(2016年9月、屋久島町議会)

荒木町長、926日に住民と協議へ

 荒木町長ら町幹部と住民の話し合いは、926日午後630分から安房公民館で開かれる。安房校区の区長会は「安房校区だけでなく、できるだけ多くの住民に参加してもらい、南部地域の文化拠点を守る必要性を町幹部に訴えてほしい」と呼びかけている。

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