【視点】牧場の労働環境をめぐる町の「二枚舌」 屋久島町営牧場 過重労働死訴訟

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町、裁判では「風通し良く」「適宜休憩でき」「過酷ではない」➡ 一方で「休憩スペースなく」「夏は熱中症リスクが高く」「拘束時間も長い」として休憩室を整備
休憩室問題

【上左】屋久島町営長峰牧場の衛星写真(Google Earth より)【上右】鹿児島地裁(裁判所ウェブサイトより)【下】屋久島町役場

 屋久島町営の長峰牧場の労働環境について、町が全く正反対の説明をしているが、いったいどちらが本当なのか?


裁判では「適宜休憩を取ることができた」

 20198月に長峰牧場で町職員の田代健さん(当時49)が過重労働で死亡した問題をめぐる損害賠償請求訴訟で町は、牧場は標高が高くて風通しが良く、職員は「適宜休憩を取ることができ」たとして、労働環境は「過酷と評価できるものではなかった」と主張している。

予算獲得の際には「休憩をとるスペースが確保できない状態」

 ところが20247月、町は長峰牧場にシャワーとトイレを備えた休憩室を整備する予算を獲得する際に、次のように説明していた。

「牧場作業員が休憩をとるスペースが確保できない状態となっている」

「牧場作業は外作業であるため、これから夏になり暑さが厳しくなるため、作業中の熱中症等のリスクが非常に高まる

牧場は拘束時間も長いため、早急に休憩をとることができる場所の設置が必要だ」

 つまり、夏場の長峰牧場では熱中症のリスクが高まり、作業の拘束時間も長いため、早急に作業員用の休憩室を整備する必要があるということである。
町開示文書
長峰牧場の休憩室を整備する工事業者を選定する際に、屋久島町が作成した文書。「熱中症等のリスク」や「牧場は拘束時間が長い」などとして、休憩室の必要性を説明している(※モザイクは屋久島ポストが加工)

裁判所に事実とは違う主張の疑いも

 裁判所に対しては、長峰牧場では適宜休憩ができ、労働環境は過酷ではないと主張。その一方、予算を獲得するためには、暑さが厳しく、労働時間も長いため、休憩室の整備が必要だという。

 この二つを並べると、町の説明は完全な「二枚舌」だと言わざるを得ない。さらに言えば、職員が死亡したことに対する責任を逃れるために、裁判所に事実とは違う主張をしているのではないかという疑いもある。

職員、汗まみれのまま車の中で休憩

 夏真っ盛りの20198月当時、長峰牧場には作業員用の休憩室はなく、田代さんは汗まみれのまま、自家用車の中で体を休めていた。死亡前6カ月間における時間外労働時間の平均は1カ月当たり82時間20分で、国の基準である「過労死ライン」の80時間を超えており、連続勤務は50日間にもおよんでいた。

町、公務災害の認定事実を否定

 それらの状況を踏まえ、地方公務員災害補償基金の鹿児島県支部(支部長:塩田康一県知事)20232月、田代さんの死因について、過重労働で心筋梗塞を発症したことによる公務災害と認定。町の勤務管理体制については、「時間外勤務が生じないことが所与の前提となっており、また、時間外勤務時間を含めた業務配分を現場の職員に任せ、そもそも業務命令権者として主体的に勤務時間を管理する体制になっていなかった」と判断した。

 それにもかかわらず、町は「過重労働はなかったと認識している」と主張。裁判では、同基金が示した公務災害の認定事実を否定したうえで、未だに死亡原因の調査や検証をすることなく、再発防止策も講じていない。

 長峰牧場の労働環境をめぐり、裁判と予算獲得で大きく矛盾する町の説明。こんなあからさまな「二枚舌」をいつまでも続けていると、屋久島町の社会的な信用が失墜することは明らかである。

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